レポート−REPORT

関西オープンファクトリーフォーラム -それぞれのまちのトガリと”地域×地域”で広がる交流-

2020年で第5回目の開催を迎えた「DESIGN WEEK KYOTO」。2020年2月22日のオープニングの一環として近畿経済産業局との共催により、現在関西でも広がりつつある「オープンファクトリー」をテーマにフォーラムを開催した。「DESIGN WEEK KYOTO」から生まれた業種を超えた交流や、関西各地でのオープンファクトリー事例を紹介するとともに、キーパーソンの皆様によるパネルディスカッションや参加者との意見交換によって、皆様の新事業へのヒントや新たな繋がりの創出、地域におけるオープンイノベーションの推進を目的に開催し、地元京都企業の皆様だけでなく、これから「オープンファクトリー」に取り組みたいと考えておられる関西各地の企業、自治体、金融機関など支援機関も含めて幅広い参加者が集まった。

text:北林 功 Isao KITABAYASHI

サマリー

  • 1.それぞれの地域特性に合わせたオープンファクトリーの経緯や形がある
  • 2.しがらみや当事者間での葛藤、資金面など運営者ならではの色んな悩みも色々
  • 3.地域の間で連携することによる可能性の広がりは無限大

DWKのオープンファクトリーは多種多様なものづくりの現場を見ることができる

【登壇者】(敬称略)
石井 裕二 Yuji ISHII(株式会社キャステム 京都LiQ 課長)
西田 明子 Akiko NISHIDA(株式会社西田惣染工場 代表取締役社長)
中尾 弘基 Hiroki NAKAO(株式会社ナカニ / にじゆら 専務取締役)
木幡 巌 Iwao KOBATA(株式会社木幡計器製作所 代表取締役)
新山 直広 Naohiro NIIYAMA(TSUGI llc. 代表)
松尾 泰貴 Yasuki MATSUO(八尾市 産業政策課 (みせるばやお))
足立 光晴 Mitsuharu ADACHI(近畿経済産業局 中小企業政策調査課長)
津田 哲史 Satoshi TSUDA(近畿経済産業局 中小企業政策調査課 総括係長)

【モデレーター】
北林 功 Isao KITABAYASHI(一般社団法人Design Week Kyoto実行委員会 代表理事 / COS KYOTO株式会社 代表取締役)

オープンファクトリーは人を育てる

イベントの開始にあたって登壇したのは近畿経済産業局の津田氏。関西でのオープンファクトリーの開催情報や、参加オープンファクトリーへのインタビュー等を通じたリサーチ結果についての紹介があった。そこで語られたのは、新たな取引先等の開拓といった効果もさることながら、モノづくり現場をオープンにすることで、会社のビジョンの共有や5Sの向上、そしてコミュニケーション能力やモチベーションが向上するなど、社内の人材育成に最も効果が出ているという結果だった。場を外へ開くことが社内の向上に繋がるというのはオープンファクトリーに対しての新たなイメージとなったのではないだろうか。

それに引き続いて、実際に各オープンファクトリーに取り組んでいる企業およびイベント運営の当事者それぞれの立場からの事例紹介を行なった。

リサーチ結果

それぞれの地域特性に合わせたオープンファクトリーの経緯や形がある

まず、「DESIGN WEEK KYOTO(DWK)」に参加しているキャステム京都LiQの石井氏から。広島に本社があり、主に鋳造を手掛ける同社は2018年に京都にデジタルファブリケーションの拠点を構えた。「もともと敷居が高いと思っていた工芸を始めとする京都の様々な業種の人たちだが、DWKへの参加をきっかけに知り合うことができ、交流を重ねていく中からドローン仏を始め様々なコラボレーションが生まれている」と語った。

同じくDWKに参加している、のぼりや旗を始めとする各種の生地染色を手掛ける西田惣染工場の西田氏からは、「DWKが始まったときは『怪しいなー』と思って京都人らしく様子を見ていた。3年続いていたら参加しようと思い、実際3年続いていたので参加を決めた」という京都らしいエピソードも語られた。京都で何十年も事業を営んでいる企業同士にも関わらず、DWKで初めて知り合ったということや、年を経るごとに従業員の自主的な参加意識も高まっており、工場をオープンすることによる人材育成の効果を実感しているというエピソードがあった。

ナカニ/にじゆらの中尾氏は、手ぬぐいに関連する様々な企業が運営している堺の「手ぬぐいフェス」を紹介された。(ご自身は広報を担当)手ぬぐいを身近に感じてもらうために「フェス」の形式を取っており、親子連れも含め地元を含めた来場者との交流が生まれている様子が語られた。

木幡計器製作所の木幡氏からは同じく大阪の湾岸エリアで開催されている「大正・港オープンファクトリー」についてご紹介された。この地域は過去には「東洋のマンチェスター」とも呼ばれ、明治期には紡績産業、その後は重工業も栄えてきた地域である。ここでのオープンファクトリーはツアー形式でのみ実施していること、イベント期間以外でも主に修学旅行生ら向けにも有料で実施していることなどの紹介があった。

福井の鯖江地域を中心に開催している「RENEW」を運営しているTSUGIの新山氏は、もともと福井市に移住し、福井市職員時代から地域の将来へ向けた取り組みを展開していた。その過程で眼鏡はもちろん漆器や和紙、陶芸、刃物、箪笥などのモノづくりの産地が集中している鯖江でオープンファクトリーイベントを開催することで可能性が開けると考えたという経緯などを語った。特に「大日本市」とコラボレーションした3年目に大幅に来場者が増え、販売額も大きく伸びると共に運営体制も大きく向上し、その後日本最大規模のイベントとして来場者が継続的に来場し続けるようになったという話は印象的だった。(大日本市とのコラボは3年目のみ)

八尾市が開催している「みせるばやお」の企画・運営をしている八尾市職員の松尾氏からは、工場を見せることが困難な事業者も多い特性もあったことから、近鉄八尾駅前の商業施設内に、工場の技術に触れられる施設をオープンしたこと、取り組んでいるワークショップなどの紹介があった。また「八尾 変態」で検索すると松尾氏がヒットするくらい、八尾における松尾氏のスーパー公務員としての活動、そして企業との信頼関係の高さは他の地域の行政・金融等支援機関の方への刺激になったと思われる。

(なお、本来はこの自己紹介パートまでで40分の予定が、実際には1時間半が経過…オープンファクトリーイベントを運営している皆さんの語りたいエネルギーのコントロールはとても困難であることを実感しました…)

2.しがらみや当事者間での葛藤、資金面など運営者ならではの色んな悩みも色々

続いて行われたパネルディスカッションでは、一言で「オープンファクトリー」といっても主催が行政であったり、民間であったり、あるいはその両方であったり、運営のパターンも様々であり、抱えている課題も多種多様であることが語られた。

例えば「みせるばやお」は八尾市(という立場にいる松尾氏)が民間の事業者をどんどん巻き込んで運営している。

「大正・港オープンファクトリー」は、行政主体でスタートした後、財源も含めて修学旅行生の見学費などからまかなうなど、民間で運営するところに行政も協力するといった形に移行しており、継続的な運営が図られている。

「RENEW」と「DWK」は、どちらも「よそ者」である新山氏と北林がスタートし、民間が主体となって運営しているところに、行政や支援機関等が人的な面も含めてサポートしているというところで似ているパターンと言える。どちらも古くから産業が根付いている地域だけあって、(特に初期段階では)なかなか多くの理解を得ることが難しかったこと、少しずつ実績を積み重ね、地域の企業の方々が「自分ごと」としてイベントを捉え、主体的に活動に参加するようになってきているといった共通点があった。同様の背景がある産地でオープンファクトリーを実施する際は、参考になるかもしれない。

「手ぬぐいフェス」は作り手・売り手など、立場が異なる人たちが色んな思いを持って参画・運営しており、運営スタイルが確立途上であることなどが中尾氏から話され、パネラーがお互いの経験から運営上のアドバイスが多数出るなど、まさに同じような苦楽を経験してきたからこその「同志ならでは」のトークが展開された。

3.地域の間で連携することによる可能性の広がりは無限大

それぞれの地域でまさに本イベントのサブタイトルの通り、特徴的な「トガリ」があるオープンファクトリーが様々な仕組みや内容、運営体制、開催されているということが共有できた。もちろん全てのオープンファクトリーイベントが万事うまくいっているというわけではなく、どの地域でも課題は山積している。

しかし、オープンファクトリーを実施することによる企業および地域にもたらす価値の大きさについて、着実に認識が広がってきている。また地域の各種プレーヤーがそれをサポートする動きも出てきている。

このように各地域の中で、多種多様なオープンファクトリー同士がつながることで、共に学び合い、高めあっていく関係になっていくことで、地域が活性化していくことが第一歩だ。

そして何よりも今回のフォーラムを通じて、同じ「関西」という地域の中で、これだけの魅力的かつ高度なモノづくりに取り組む方々がたくさんいらっしゃるということをお互いに知ることができたことがとても大きい。お互いに数時間の距離にある企業同士がオープンファクトリーという場を通じて繋がり合うことが、次の段階と言える。

近畿経済産業局の足立氏がおっしゃっていたように「関西のオープンファクトリー同士が横に連携することで、関西は盛り上がっていく」ということを今回のフォーラムで強く感じることができた。

これから生まれていく関西の中での今後の横のつながり、そして新たなコラボレーションといった可能性の高さに期待が高まるパネルディスカッションとなった。

【主催】一般社団法人Design Week Kyoto実行委員会
【共催】経済産業省 近畿経済産業局
【協力】ワコールスタディホール京都