レポート−REPORT

「DESIGN WEEK KYOTO 2022 in 丹後・中丹」ツアーレポ part 1

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2022年11月10日(木)から4日間にわたり開催された「DESIGN WEEK KYOTO 2022 in 丹後・中丹」。こちらでは、丹後各地のモノづくりの現場を体験したツアーの様子を、シリーズでお届けします。

参加したのは、大阪在住の酒好き旅好きWebライター。初めて訪れた丹後の地で待っていたのは、実に多くの人、場所との出会いと感動でした。

1日目は丹後・中丹のオープンハウスをめぐるコース。前日のお酒を控えつつ、早起きをして早速出発です!

朝日が照らす宮津駅に集合

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出発前から、丹後を感じるツアーは始まっている。

集合場所の京都丹後鉄道「宮津駅」まで私を運んでくれたのは、一両編成のカラフルなラッピング列車。地元の方に伺うと、京丹後には地元をアピールする列車がいくつも存在するのだとか。

また、古くから船が行き交い、かつて宿場町として栄えた駅前には、趣ある喫茶店や居酒屋が立ち並んでいました。

今回のツアーの大きな特徴は、丹後に精通したコーディネーターが同行してくれること。次に向かうスポットの内容や、丹後の歴史などに耳を傾けながら貸し切りバスで移動できます。

  • 11月10日(木)訪問オープンハウス

    1. ビオ・ラビッツ(農場・レストラン)
    2. 田勇機業(テキスタイル)
    3. シオノ鋳工(鋳物)

初めに訪れる「ビオ・ラビッツ」では、有機農業を手がけているそう。車窓の景色は里中へとぐんぐん変わり、1時間もしない間に目的地へ到着です。

「ビオ・ラビッツ」食べることは、つながること

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「目の前に畑があります。ぐるーっと周りを見渡して。ほかに、何がありますか?」

頭上に広がる青い空に、風が草木を揺らす音。畑の横に腰かけた参加者にそう問いかけるのは「ビオ・ラビッツ」代表の梅本 修さんです。

今、この豊かな景色の中にいる人間は私たちだけ。優しく穏やかに思えるこの環境でも、牛1頭が暮らすには1ha(100m×100m)以上の土地が必要だというから驚きます。

キジの夫婦にいたっては、5ha以上の土地がないと生きられないそう。事実、見渡すかぎりに広がる8haもの畑には、1組だけキジの夫婦が暮らすと梅本さんは教えてくれます。

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「ビオ・ラビッツ」代表 梅本 修さん

「人は農業をしながら主役的に暮らしていますが、植物と動物のバランスは99:1といえるほど、動物は非常に小さく、植物の役割は大きいんです」

隣の生活音が響くマンション。満員電車。狭い場所で管理される家畜動物たち…。

自然のなかで梅本さんの言葉を耳にしながら、思わず自分が身を置く日常が頭を巡ります。

自然の摂理のなかで生きることが、体と心の健康、そして生き物の健康へとつながると考えるビオ・ラビッツの畑で育つのは、有機栽培の野菜たちです。

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緑がまぶしい畑に足を踏み入れ、採れたてのルッコラとパクチーを実食!

「すごーい!おいしい」
「え、パクチー苦手なのに、これは食べられる!」

ついさっきまで土と繋がっていた野菜のみずみずしさ、力強い美味しさに歓声をあげる参加者の皆さん。

そっとパクチーを噛みしめると、鮮烈で清々しい香りがぶわっと広がります。これはまさに、ここへ足を運ばないと得られない感覚。香りのあとにほんのり残る土の風味がまた、たまりません。

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大人たちが子どものようにリラックスしているのは、「土」が生まれる場所。辺り一面に詰まれているのは、刈草や落ち葉などです。

カサカサと乾いた草を持ち上げた下に現れたのは、小さくうごめく虫たちとしっとりと冷たい土。草がこのように変化するのは、微生物の活動によるものだそう。さらに、ミミズやワラジムシたちの働きで草は分解され、土へと生まれ変わります。

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「さきほどの草が年月を経てこうなります。もう完全に、土でしょう?」

自然の土壁を背に、100%草生まれの土を手にする梅本さん。その土には、草を求めてやってきた虫、動物たちの糞や死骸も含まれています。

つまり、この土で育つ野菜を食べることは、土となった草木や落ち葉、自然そのものをいただくということ。

食べることは、自然とつながること。

例え都会で暮らしていても、自然の摂理にかなったものを口にできれば、人は健やかでいられると梅本さんは語ります。また、現在農業に携わる方は若年層が主で、ビオ・ラビッツには移住者も含め多くの若者が集っているそうです。

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ビオ・ラビッツは多くの人を迎え入れてくれると話す、スタッフの清水さん

丹後では、子育て世代を中心に世代から世代へと有機野菜の魅力が受け継がれています。梅本さんが作る野菜、そして伝える言葉は、自然と人だけでなく、人と人とをつないでいる。

どうしよう。しょっぱなから満足度高いぞこのツアー…!

柴犬ハナちゃんをモフモフさせてもらいながら感激しつつ、皆様にお礼を伝えバスへと乗り込んだのでした。

「大成古墳群」で古代ロマンと青空ランチ

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興味を感じたものに触れたら、次は口に入れたくなるのがヒトというもの。昼食は「ビオ・ラビッツ」が運営するレストランで作られた有機野菜のランチボックスです。うれしい!

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場所は、青く澄んだ海を見下ろす「大成古墳群(おおなるこふんぐん)」。あちこちに残る13基もの大きな古墳。立岩の向こうに見える、間人皇后(はしうどこうごう)・聖徳太子母子像が古代ロマンを感じさせます。

機織や鋳造など、中国大陸から多くの技術が伝来し、かつては『丹後王国』として栄えたという丹後地方。風景の中に実際身を置くと、歴史の流れがすんなりと頭に入ってきます。

何よりこの日はすばらしいお天気。『弁当忘れても傘忘れるな』といわれるほど雨が多い丹後地方で、これだけ晴れ間が続くのはめずらしいそうです。

お腹も心もすっかり満たされ、すばらしい風景に感謝しながら午後のスポットへと移動しました。

「田勇機業」歴史と技が紡ぐ、日本の美

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京丹後は、古くから絹織物の伝統を受け継ぐ場所。訪れた「田勇機業」は、シボと呼ばれる独特の風合いを持つ丹後ちりめんの織元です。

「ちりめんというと、織物ではなくちりめんじゃこかと思った、という方もいらっしゃるんですよ」

着物を着る人は少なくなり、人々がシルクに触れる機会も減ってしまったと話す「田勇機業」代表の田茂井 勇人さん。多くの人へ丹後ちりめんの魅力を伝えたいという思いから、こうして工場見学を受け入れているといいます。

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「田勇機業」代表 田茂井 勇人さん

プライベートで着物を着用する機会はあるものの、実際に反物が織られる様子を見学するのは初めて。そもそも1枚の織物は、経糸(たていと)と緯糸(よこいと・ぬきいと)、それぞれが折り重なることで生まれます。

丹後ちりめんがくしゅくしゅっと縮れているのは、緯糸に“より”と呼ばれるねじれが加えられているから。糸1mあたり、3000回以上のよりをかけるのがどれだけ大変なものなのか、田茂井さんのお話でその工程に思いをはせることができました。

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緯糸の次は経糸の準備です。カシャン、カシャンという小気味いいリズムにあわせ、無数に置かれた糸巻から上へ上へと細い糸が引き出されていきます。

その糸は頭上を通り、奥の大きなドラム型の木枠へ。ドラム1回転で4m分巻き取れるので、織物1反(12m)用意するには4回転させる計算です。

織物というと布を織る工程だけをイメージしがちですが、実は糸を用意するまでが手間のかかる作業。理屈ではわかっていたつもりでも、間近で目にすると1つひとつがどれだけ大変なものなのか思い知らされます。

「次は織る工程へ向かいましょう。ここからは音が大きいですよ」

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田茂井さんに案内された先に姿を現したのは、ズラッと並ぶジャカード織機!

驚いたのは、その音。ガシャシャシャン、ガシャシャシャンと規則正しく機械が動く音が、耳に体に響きます。おのずと質問の声も大きくなり、内容を聞きもらすまいと気付けば田茂井さんに近付いていたほど。

これはすごい、興奮する。さっきの縦糸を巻く音がカントリーミュージックなら、これはロック。頭上で糸を送る機械が上下し、模様を生み出す穴の開いた紋紙はコマ送りのように動いていきます。その先で少しずつ少しずつ、美しい織物が生まれる様子はなんともおもしろく、目が離せない…。

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穴で経糸の動きを操る=模様を生み出す「紋紙」

近年はフロッピーディスクやUSBへと代用されつつあるものの、古いジャカード織機は故障することも多く、その点で紋紙は壊れる心配が少ないそう。

機械そのものが故障したときは、中古部品などを使いつつ修理にあたるそうです。戦時中、織機を直す職に就いていた人々は「飛行機を飛ばすほうがよっぽど簡単」と口にしたといいます。

それほど精密で、繊細な織機から生まれる織物、丹後ちりめん。

国内の絹の4割は丹後で消費されるなど、圧倒的シェアを誇るものの機屋(はたや)の数は減少の一途をたどっています。

「白生地も西陣の帯も、丹後ちりめんがなくなれば姿を消してしまう。日本の文化そのものがなくなってしまう」

帰り際にそう話してくださった田茂井さん。改めて、日本の伝統文化、織物に触れる時間を慈しみたくなるような、とても貴重な体験でした。

名工・重森三玲(しげもりみれい)作の美しい庭を愛でたあとは、いよいよ最後のスポットへ。西日を受けながら、バスは与謝野町へと向かいます。

「シオノ鋳工」鉄たぎる現場を支える手作り給食

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いやいやちょっと待って、聞いてない。

ヘルメットを被せていただいたときから、なんとなーく危ない現場なんだろうなとは思ったよ。そりゃ、一応下調べだってしていたよ。

でもまさか、鉄がグラグラ沸き立つ音が聞こえるほどリアルで、目の前で火花がスパークするほどアツイ現場だなんて…!

「シオノ鋳工」は鋳造を手がける会社。型に溶けた金属を流し込み、冷やして固める技法でさまざまな製品が生み出される場所です。

あらかじめ屋外で鋳造の流れを伺ったあと、足を踏み入れた現場で繰り広げられたのが冒頭の光景でした。

「あ、あの…めちゃくちゃ熱そうなんですけど」
「はい、熱いですね。1000℃以上あります(おそらくマスクの下にっこり)」
「え、えっと、何か特別な防護服を着てらっしゃるとか?」
「何枚か着てはいますけど、特別なものではないですね(おそらくマスクの下にっこり)」
「やっぱりこう…仕事をしてらっしゃるのは何年もの経験を積んだ…」
「いえ、1~2年で作業にあたります(おそらくマスク…以下略)」

思わず尻込みしてしまうような現場を前に、淡々とお答えくださる職人さん。ただただもう、カッコイイのひと言しかありません。

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こちらは、ハンドルを操作しながら、溶かした鉄を型へと流し込んでいるところ。驚くのは、型の注ぎ口がわずか直径15cmほどしかないということ!しかも、内部は見えないというから、作業の難しさは想像を絶します。

鉄が足りなければもちろん欠品。多すぎればあふれ出してしまう。時間とともに鉄は固まりはじめるため、正確さとスピードが求められるこれぞまさに職人技。

「鋳物のいいところは、欠陥があっても割って溶かしたらまた再利用できる。無駄がないことなんです」

そう教えてくださったのは、広報担当の河邉さん。実際に、現場ではチョコレート色の鉄のかたまりが製品になるときを待っていました。

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これらはエレベーターの部品や、地中に埋まる水道のバルブなどに姿を変えるそう。見えないところに、こんなにすばらしい技術で生まれる鋳物の数々が隠れている。改めて、物事を知るというのは、社会の見方を変えてくれるものだなと実感します。

「シオノ鋳工」のもうひとつの魅力が、社内で振る舞われる手作り給食です。別棟の厨房へお邪魔すると、ちょうど明日の仕込みをされているところでした。

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塩野社長の奥さまで給食班 塩野 菜央さん

ピカピカに磨かれたシンクに、無駄なものが一切置かれていない調理台。明日のメニューはなんですか?と伺うと「カレイの唐揚げですー♪」とめちゃくちゃ明るいお返事が返ってきました。

唐揚げ…!揚げ物なんてめっちゃ手間がかかるのに、すごい。と感激してしまうめんどうくさがりの私…。ところが、驚くのはまだ早かった。

人気メニューって、なんですか?という問いに「あ、ちょっと待ってくださいね。ランキングがあるんです」と、同じく給食班の稲垣さんが出してくださったのが、こちら。

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3月から10月まで、上位にランクインしたメニューたちが、ズラリ。これだけのものを、毎日、毎日、毎日…。

料理って、作るだけじゃない。献立を考えて食材を用意して、下準備をして調理をしたら、配膳をして片付けて…。しかも、このすべてに社員の健康を考えた20品目以上が使われている。

愛じゃん。これもう、社員への愛じゃん…。

食べることは、つながること。ここでも、食べものが人と人とをつないでいる。

そして、すべての料理が写真で残され、社員に意見を求めたうえでのランキングとして掲示されていることに、社内の温かな相互関係を感じずにはいられない。

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こちらは屋外に掲示されていた、社内活動の様子。

「すごいわ、これ…。ほかの会社だったら、イベントしても社内HPとかに載せて終わりなのに、こうして社員みんなの目に留まるようにして…すごいわ」

じっと写真を見上げながら、そうつぶやく参加者さんの姿が印象的でした。

「シオノ鋳工」は来春、新工場がオープン。そこにはカフェも併設されるそうです。

帰りのバスから手を振りながら、「そのときはまた丹後へ足を運びたいな。ここへ来るまではまるで、鋳造のことはわからなかったのに」とふしぎな気持ちに満たされた帰り道。

1日をとおし丹後の食、織物、鋳造と、モノづくりを取り巻く人々の想いに触れた感動が、夜の1杯をまた美味しいものにしてくれました。

執筆:永田 志帆