レポート−REPORT

「DESIGN WEEK KYOTO 2022 in 丹後・中丹」ツアーレポ part 2

DESIGNWEEKKYOTOツアー

2022年11月10日(木)から4日間にわたり開催された「DESIGN WEEK KYOTO 2022 in 丹後・中丹」。こちらでは、丹後各地のモノづくりの現場を体験したツアーの様子を、シリーズでお届けします。

参加したのは、大阪在住の酒好き旅好きWebライター。初めて訪れた丹後の地で待っていたのは、実に多くの人、場所との出会いと感動でした

part 2となる今回は、中丹エリアをまわった様子をご紹介!今回のツアーには、地元の学生さんも参加されていました。

  • 11月11日(金)訪問オープンハウス

    1. 波多野製作所(ネジ製造)
    2. 三葉商事(刺繍)
    3. 舞鶴ふるるファーム(農業・レストラン・宿泊)

前回とはまた違った趣になりそうな予感を乗せ、バスは「波多野製作所」のある鷹栖町へと走り出します。

「波多野製作所」ネジ、すごい…!!

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「この工場のなかで、1カ月に一体どれだけのネジが作られると思いますか?」

「波多野製作所」代表、波多野 隆史さんの問いかけで始まった工場見学。

「1万本!」「10万かな…」「1000万本くらい?」参加者それぞれの回答に対する波多野さんの答えは、

「正解は、約1億本です」

というケタちがいのものでした。

「波多野製作所」の創業は、昭和13年。当初は大阪の御幣島(みてじま)で、機械部品の歯車製造を手がけていました。戦時中の混乱期に綾部に居を移し、ネジ製造を始めたのは昭和34年に入ってからのこと。

製造されたネジは、某ゲーム機のコントローラーに使われるという話に「おぉ」と学生さんの顔が輝きます。

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「波多野製作所」代表 波多野 隆史さん

工場に立ち入る前、波多野さんが教えてくださったのはネジの製造方法。短時間に大量のネジを生産する機械のスピードは早く、事前に予備知識を得ていたほうが仕組みがわかりやすいからです。

頭と呼ばれるネジの上部には、スタンプを押す要領で十字の刻みが入れられます。また、ネジの側面の凸凹を生み出すのは、細い刻みが入った2枚の板です。ネジの部品を間に挟み、圧力をかけながら上下にスライドさせることで、360℃ぐるりと凹凸が生み出されます。

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驚いたのは、ネジの材料はすべて素材や直径が異なるということ。直径は1/100mm単位で管理され、使用用途によって素材は使い分けられます。

もし、ネジの材料を使い間違えたらどうなるのか。製品となったその先で、ネジの頭が飛んでしまう可能性が生まれます。その製品がエアバッグやシートベルトなど、人の命に関わるものだったとしたら…?

「そこらへんに転がっているようなネジでも、管理はとても難しいものなんです」

私たちが気付かないだけで、小さな小さなネジが、日々の安全を守ってくれていることを痛感しました。

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木造の建屋は創業当時のもの。改修しながら今に受け継がれる工場には、部品がむき出しの古い機械たちも並びます。

かつては自動車メーカーに、「こんな古い機械で大丈夫なのか」といわれたこともあったそう。現在は品質の良さが認められ、古い機械から生まれるネジたちは、多くの自動車に乗り世界中を走り回っています。

また、従業員の多くが兼業農家であることも「波多野製作所」の大きな特徴です。稲刈りのシーズンには、天候を理由に休みを取る従業員も少なくありません。

稲刈りだけでなく、旅行がしたい、家族との時間がほしい…休む理由はなんでもかまわない。その代わり、自分の仕事の納期は自分で立て、どうしても間に合わないときはお互いさま。そんな勤務スタイルのもと、「波多野製作所」では30代から80代まで幅広い年齢層が活躍しています。

「仕事を覚えるのは、その人のペースで構わないんです。大切なのは仕事を覚えた、その先」

初心者でもネジ製造はできますか?という問いに、前職で培った営業のノウハウが今の仕事に活きているという波多野さんは続けます。

「仕事でも勉強でも遊びでも、どうしても自分と人を比べてしまうことがあると思う。だけど、がんばるのは自分のため。自分を信じてがんばっていれば、結果はすべて自分に返ってくる。何かをこつこつと続けることには、必ず意味があるんです」

波多野さんがお話される間、そっと参加者のテーブルにお菓子を置いて回られていたのは、波多野さんのお母さま、千榮子さん。小さなネジを作る工場の、大きな温かさに触れたひと時でした。

どうしよう…また今日もしょっぱなから満足度高いぞ、このツアー…!

皆様にお礼を伝え、錦秋の大原神社、由良川沿いの茶屋「ゆらり」でのランチを経て、ツアーは午後の部へと移ります。

「三葉商事」カワイイ!が秒単位で生まれる場所

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カタタタタタタタ…と動く針とともに現れる、色彩豊かな刺繍たち。糸が織り成す美しさ、かわいらしさを教えてくれたのは、舞鶴の「三葉商事」です。

「三葉商事」は、現代表・山下 武志さんの父、山下 正二さんにより昭和38年に創業。後にグンゼと提携し、下着や子ども肌着の刺繍を中心に事業を拡大していきます。

二代目となる武志さんは、キッズからレディース、メンズ、スポーツアパレルとさらに幅広いジャンルへと事業を展開。平成18年にはWebショップを開設し、現在はデザインから刺繍、縫製、販売まで一貫して手がけています。

案内された工場の1階では、名前やメッセージの刺繍に対応できる機械がフル稼働していました。ひらがなや漢字が入ったカラフルなモチーフが、あっという間にあちこちでできあがっていきます。

ピンクやブルーの花柄ワッペンに、羊やウサギの繊細なモチーフまで…か、かわいい!

機械の上にはカラフルな糸が並び、設定できるカラーバリエーションも実に豊富。「毎日かわいいものに囲まれて働いています」と、てきぱきパネル操作されるスタッフさんの笑顔が印象的です。

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こちらは、幅広生地に対応できるミシン。この機械であれば袴にも刺繍が可能です。ミシン音が響き渡るなか、連なって規則的に針を落とす姿はラインダンスを舞うかのよう。奥では、舞鶴海上自衛隊のグッズを刺繍するミシンも大活躍していました。

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刺繍の仕上げは手仕事です。熱でハートの縁をなぞり、シートから刺繍を切り離していきます。奥には星型のモチーフも…なんて繊細な作業!

ぐるっとフロアを見渡すと、お守り袋を仕上げる方に縫製作業をする方、デザインを考える方と、多くの女性スタッフが活躍されていることに気付きます。聞くと、三葉商事は働くママの雇用に意欲的で、女性ならではの感性が多くのアイテムに活かされているそう。

いきいきと彩り豊かなアイテムを世に生み出すその姿は、とても美しく、かっこいい。

ここから生まれた刺繍たちが離れた誰かの手に届き、そこでまた新たな笑顔の花を咲かせている。小さなクローバーの花が、あちこちで花開くように…そんな風景が心のなかに浮かびます。

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一見プリントのように見えるこちらも、すべてが刺繍。好きな景色や絵画を選べば、インテリアとして空間を彩ってくれそうです。

「三葉商事」では、次世代を担う山下 正人さんが住宅関係の仕事に携わっていたこともあり、今後は刺繍によるインテリア装飾にも力を注いでいくのだそう。刺繍の新たな可能性に高揚しつつ、帰りのバスへと乗り込みます。

日が傾きはじめた舞鶴湾沿いをぐんぐん進み、発電所の横を通り過ぎ…ツアーの最終スポットへと移動です。

「舞鶴ふるるファーム」こころふるえる、ふれあえる

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「うさぎにエサやりができるらしいよ」という事前情報を仕入れ、実は前日からワクワクが止まらなかったケモノ好きの私…。若狭湾を見下ろす「舞鶴ふるるファーム」は、地元の恵みに触れて、食べて、体験できる施設がぎゅっと詰まった場所です。

発電所建設当時、資材置き場や作業員の宿泊地として利用されていたこの土地。「舞鶴ふるるファーム」が誕生した背景には、発電所完成後、空き地となったこの場所に人を招きたい。多くの人に訪れてもらい、農業や食を通して舞鶴の魅力を届けたい、という地元の思いがあったといいます。

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「さぁ、これは一体、なんの野菜からできているのでしょうか?」

案内役の福島さんから振る舞われたのは、ふるるの野菜を使った3つの料理。奥の野菜はフキのような食感。まんなかはモロヘイヤのように少しネバネバ。手前はほのかな苦味と食感が美味しい胡麻和えです。

「何かの茎と、はっぱ?」
「お、いいですねー!なんの茎と葉っぱでしょう?」

うーんと考えながら料理を全部いただく学生さんたち。実は、奥の2つはどちらもサツマイモからできた料理。手前の胡麻和えには、ニンジンの葉が使われていました。

1日でしなびてしまう野菜の茎や葉も、農園とレストランが直結した「舞鶴ふるるファーム」なら、その日のうちに美味しく調理できます。サツマイモは、実よりも葉のほうが栄養価が高いというからびっくり。ここへくれば何かしらの学びがあると、足を運ぶ家族連れも多いそうです。

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こちらはビュッフェスタイルで食事が楽しめるレストラン。ランチタイムには、地元野菜を使ったメニューが所狭しと並びます。

窓の外に広がるのは、山の緑と空の青、海のコントラストが美しい雄大な景色。屋外には、頭上にブドウが実るテラス席が設けられています。なんと、ビュッフェと別途料金でアルコールもいただけるというではないですか。

自然に包まれたテラス席で、地元の恵みが息づく料理に丹波ワイン…最高。これはまた足を運ばなくては。

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4年前、綾部ふれあい牧場と、福知山市動物園からやってきた数羽から始まったというウサギファミリーは、今では40羽の大所帯に。その前からなかなか離れられない参加者のみなさん…(笑)

園内には、クッキーにポッキー、トッポと名付けられたポニーたちの姿も。これがまためちゃくちゃかわいいのよ…ヤギも羊もいるよ…。老若男女問わず、動物好きの癒しスポット、ふるるファーム…。

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園内には、貸し農園やキャンプサイト付きのバンガローも。農機具やキャンプ道具も利用でき、必要であればスタッフのフォローが得られます。

1棟利用できるコテージ前に広がっていたのは、学生さんが思わず「すげぇ!」と叫んでしまうほど絶好のロケーションです。

「レストラン需要に影響があったものの、コロナがもたらしたのは悪いことばかりではありませんでした」

青空と色付き始めた山々をバックに、福島さんは教えてくれます。

「田舎で過ごしたいというニーズは増加し、今、ふるるはレストラン主体から宿泊主体の施設へと変わろうとしています。地域の高齢化と人口減少が懸念されるなか、移住者の受け入れは大歓迎。ふるるで自然に触れ、この土地の良さを知ってほしい。そして、移住のきっかけとしてほしい」

昨年3棟だった宿泊施設は、今年は9棟に増加。来年は18棟まで増設が予定されています。

未曾有の事態に世界が翻弄されたここ数年。そのなかでも、人は新たな何かを見つけ、生き方を変え、着実に次のステップへ歩み出そうとしている。

「楽しかったー」と顔をほころばせる若者たちと挨拶をかわし、丹後鉄道に乗り込んだ帰り道。このツアーは、外から訪れる人に丹後を教えてくれるだけでなく、未来を担う若者に、自分たちが生まれた場所の魅力を再認識させてくれるものかもしれない…あぁそして今すぐ、ワインが…飲みたい。

前日に続き今日もまた、丹後の人々との出会いに心満たされた1日となりました。

執筆:永田 志帆