レポート−REPORT

「DESIGN WEEK KYOTO 2022 in 丹後・中丹」ツアーレポ part 3

DESIGNWEEKKYOTOツアー

2022年11月10日(木)から4日間にわたり開催された「DESIGN WEEK KYOTO 2022 in 丹後・中丹」。こちらでは、丹後各地の仕事現場を体験したバスツアーの様子を、シリーズでお届けします。

参加したのは、大阪在住の酒好き旅好きWebライター。初めて訪れた丹後の地で待っていたのは、実に多くの人、場所との出会いと感動でした。

part 3となる今回は、いよいよツアーの最終日!なんと参加者はすべて女性。バスのなかはちょっとした女子旅の雰囲気です(笑)

  • 11月12日(土)訪問オープンハウス

    1. filtango(テキスタイル)
    2. HOTEL 艸花(ホテル)
    3. 京都府織物・機械金属振興センター(研究所)
    4. 溝川家具店(家具)

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ひとつめの「filtango」の会場は、今回のイベントのホームでもある『まちまち案内所』です。2階スペースで待っていたのは、やわらかな朝日に照らされた虹色のシルクたちでした。

「filtango」グレイスカイを彩るイタリアンカラーのシルク

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「糸を見ると、すぐ編んでみたくなるんです。編んだ時に生まれる新たな表情が知りたくて」

笑顔で教えてくれた山根さんは、「filtango」で丹後ちりめんとイタリアのカラーを掛け合わせたストールを展開。かつては、ニットデザイナーとして世界中の糸に触れてきた経歴を持つ人物です。

地元出身の山根さんが丹後ちりめんに魅せられたきっかけ。それは、機屋に眠っていたクラシカルな柄織物との出会いでした。「filtango」のストールにも、大正や昭和を思わせるレトロな和柄が織り込まれています。

丹後で絹織物が栄えた理由のひとつとしてあげられるのが、年間を通した湿度の高さです。細い糸を強く撚り上げる丹後ちりめんにとって、乾燥は大敵。ときには気持ちを沈ませる灰色の空も、パジャマをひんやりとさせる冷涼な気候も、そのすべてが、こんなにも美しい織物を生み出す技へと繋がっている。

「自分の生まれ育った場所で織り続けられてきた布の美しさに、改めて気付かされました」

そう語る山根さんが生み出すストールは、現代ファッションになじむイタリアカラーに染められています。白いTシャツにデニムのような、シンプルなスタイルに映えるカラーをイメージしているそう。女性参加者からは「わぁ、なるほど」「わかる」と声が上がります。

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絹糸がまとうタンパク質“セリシン”を残して仕上げたボディウォッシュも、「filtango」の主力アイテムです。

機械では編めない糸をかわいらしいアイテムへと編み上げるのは、地元の70代のご婦人たち。この日は、すぐ横のテーブルで実際に編んでらっしゃる様子も見学させていただきました。

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「filtango」代表 山根 ちさとさん

「fil(フィル)」とは、フランス語で糸のこと。自分にずっと縁がある「糸」を、ブランド名にしたかったという山根さん。ボディウォッシュの絹糸には余分な加工を施さず、パッケージにはナイロンは使用しないなど、環境に配慮しながら丹後ちりめんを次世代へと繋げる取り組みを続けています。

どうしよう…。前回前々回もそうだったけど、やっぱりしょっぱなから満足度高いぞ、このツアー!

「ありがとうございましたー」と笑顔の参加者たちを乗せ、バスは次のスポットがある網野町へと走り出しました。

「HOTEL 艸花」もてなしの心がもたらす、感動を

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ゆらゆら揺れる自然光に、静かにきらめく水面。すべてがひと続きになっているかのような空間が、心をほっとゆるませる。「HOTEL 艸花(SOKA) 」は、北欧の教え“ヒュッゲ”をテーマにした宿泊施設です。

「デンマークでは、1日に9杯コーヒーを飲むといいます。それは、コーヒーが好きだからではなく、美味しいコーヒーと共に過ごしたい人が、1日に9人いるから」

おもてなしくださった石井さんから語られるのは、ヒュッゲの軸ともいえる時間の慈しみ方。

誰とどんな時間を過ごしてもらうか大切にしているというホテル内は、クリスマスカラーに彩られています。そのどれもが、この日に合わせて用意されたスタッフ手作りのオーナメントです。

束の間の時間をたっぷり楽しんでもらいたいと、ホテル特製のピッツァも登場するという話に参加者の顔がほろこびます。

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全員がため息をもらしたのが、この絶景。夜には火がともされるという屋外ラウンジです。

マネージャーの岩田さんによると、近年は女性1人でのワーケーション利用も多いのだとか。昼間は湖畔のテラスでPCに向かい、夜は丹後の食でお腹を満たし、火のゆらぎを見つめながら頭と心をリセットする。庭を抜けた先には、疲れた体を解きほぐしてくれる温泉施設も。

想像するだけですっかり心を奪われる、なんて素敵な時間。

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パチパチッと薪(まき)がはぜる窯で焼かれるのは、シェフ特製のピッツァです。トマトソースは、ミニトマト由来の濃い甘味が魅力。上には、地元のミルク工房「そら」のモツァレラチーズがトッピングされています。バジルも地元の野菜が集まる市場から仕入れたという、丹後の恵みがたっぷりと詰まったマルゲリータ。

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「わぁ、すごーい!」「うれしいー」「おいしーい!」

チーズがとろんと溶けて生地はパリッと。アツアツピッツァを囲む参加者たちの間に流れるのは、まさに“ヒュッゲ”な時間。

聞くと、お酒のラインナップも地元産にこだわり、ワインは丹後ワイン一択だそう。庭でとれるミントを使ったモヒートや、自家製サングリアも提供されるというお話に美味しい妄想がふくらみます。

「外から人を迎え入れるには、地元が元気じゃないと。自分の生まれ育った場所を愛することができれば、どんなに素敵な未来が待っているのか。ここに来れば何か楽しいことがあるかもしれない。そこでチームの一員になりたいと思ってもらえるような、ホテル、会社づくりを目指しています」

モノづくりの企業が並ぶなかで、「HOTEL 艸花」がDWKに参加した理由をお話くださった石井さん。手作りのオーナメントが私たちを出迎えてくれたように、もてなしの時間は、その人と顔を合わせるその前からもう、始まっている。

人と人、時間をつなぐ宿泊業の魅力に魅せられた1時間。ヒュッゲなひと時を過ごした満足感と共に、ツアーは午後の部へと移るのでした。

「京都府織物・機械金属振興センター」織物はアートで、化学だ

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「京都府織物・機械金属振興センター」は、織物業と機械金属業を中心に、技術支援や人材育成研修などをおこなう公設機関です。施設内には、化学分析室や織物実験室など、専門的な研究開発を担うスペースが設けられています。

案内くださったのは、主任研究員の徳本 幸紘さん。『ジャパン・テキスタイル・コンテスト』にて、連続受賞を果たしている人物です。

研究は依頼によるものが主ですか?という問いに、「後ほどご紹介しますが、テーマを据えた自分発の研究も多いですね」と答える徳本さん。淡々とした語り口からは想像もできない世界観に、このあと全員が驚かされることになります。

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主任研究員 徳本 幸紘さん

案内された商品開発室で目にしたのは、想像を超えた織物の世界。サステナブルな要素を取り入れたという布には、トウモロコシ由来の自然に還る糸が使用されています。

『ジャパン・テキスタイル・コンテスト2021』では、エコロジー賞を受賞。糸を強く撚る加工が施されているため、生地はプリーツが寄ったやわらかな風合いです。

現在この糸は、台所の水切りネットや肥料を入れる袋に活用されているそう。いずれは分解されぼろぼろになってしまうため、洋服地として市場に流通させるにはリスクが高すぎるといいます。一方で参加者からは「なんだかそれもいいかも。いつか自然に還るお洋服」という感想がこぼれていました。

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こちらはなんと、あぜ道で刈った雑草や紅葉、イチョウで染めたという織物の数々。

「え、雑草!?」「えーきれいー」「わぁ、やわらかいー」

思いもよらぬ原料に驚きつつ、手を伸ばさずにはいられない参加者のみなさん。経糸(たていと)に紅葉、緯糸(よこいと)にイチョウを使ったという布は、光の当たり具合で玉虫色に輝きます。チェックの模様が入った生地は、軽くてふわふわ。

「これで赤ちゃんの肌着とか作ったら良さそう」
「これで寝たい。クッションカバーとか。あ、パジャマ!」
「パジャマ良いー」

女性たちの盛り上がりに「この生地ぶよぶよですけど、パジャマ…大丈夫ですかね」とつぶやく徳本さん。

「ぶよぶよがいいんですよ。パジャマで着るなら。ねー」
「うんうん、ぶよぶよがいい♪」

研究開発される方とユーザーとの化学反応を目の当たりにしているようで、なんだか楽しい。ところが、徳本さんの研究に驚かされるのは、ここからが本番だった。

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「こちらはですね、NFTからヒントを得た織物です」

NFTとは、代替できないデジタルデータのこと。NFTの世界では、小学生のピクセルアートが高値で取引されることもあります。そもそも、織物の意匠図は小さなコマ割りを色で埋めていくピクセル画そのもの。そこから着想を得て生まれたのが、こちらのテキスタイルです。

「え、何…?あ!マスクした人?」
「ほんまやー。え?メガネかけてる?」
「タモリさん?」

じーっと布を見ると浮かび上がる模様に興味津々の参加者たち。

「あ、それ、僕です」
「えーーー」(一同ハモる)

徳本さんが自分をモデルにしたのは、著作権や肖像権を全部クリアしたかったからだそう。

「ちなみにこの生地、ジャパン・テキスタイル・コンテストではエモーショナル賞を受賞しまして…」
「エモーショナル賞!」(一同ハモる・再)

エモーショナル賞。すごい。最高にエモいと評価された織物!

NFT領域の方にデジタル媒体が織物に変わるという情報が届けば、さらなる需要に繋がるのでは、と徳本さんは語ります。

さらに「ここからがクライマックスなんですけど…」と、空気のゆらぎを感知する織物まで体感させてくださった徳本さん。

身に纏うもの、何かを包むものだった織物の、新たな可能性がここにある。徳本さんの手にかかれば、思いもよらない世界がどんどん広がっていくのではと、話を聞く側も胸が高まります。

「こんなにすごいもの見せてもらえると思ってなかった」「ね、すごかったー」という声で満たされた帰りの車内。思わぬ出会いに高揚する参加者たちを乗せ、バスはツアーの最終スポットへと向かうのでした。

「溝川家具店」家具職人の、かっこよさ

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職人 松岡 範行さん

この日は、丹後ではめずらしいほど晴れ間が続いた1日。最後にたどり着いた「溝川家具店」の工房内では、日の光をバックに働く、ひたすらカッコイイ職人たちとの出会いが待っていました。

「溝川家具店」は、1960年から家具や建具の製造業をスタート。小中学校のような公共施設から、医療・福祉施設、飲食店に宿泊施設など、溝川の家具が納品される先は多岐に渡ります。

個性豊かな職人たちを紹介してくださったのは、代表取締役社長の高杉 鉄男さんです。木に携わって30年という方から、木の知識ゼロから仕事を始めたという方まで、職人さんの経歴は実にさまざま。ときにユーモアを交えながら、真摯に仕事に向かうことの大切さを高杉さんは教えてくれます。

冒頭写真の松岡さんは、アパレル業を経験したのちに家具職人の世界へと足を踏み入れた人物。経験や知識もないなか、ただただ家具を作りたいという思いで「溝川家具店」にたどり着いたといいます。

「家具づくりには、ゴールがないおもしろさがある」と語る松岡さん。その横で作業に没頭しているのは、1カ月前にベトナムからやって来たというチャンさんです。

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職人 チャン マイン ズンさん

弱冠19歳。はにかむ笑顔の裏には、ゆくゆくはふるさとで家具工場を開き、ベトナムを日本のような豊かな国にしたいという想いがあります。高杉さんいわく、1つ教えれば5になって返って来る勘の良さがあるそう。仕事のうえでは、木への思いが言葉の壁を超えお互いを繋いでいます。

木に携わって30年という奥田さんは、大工経験も有する家具職人です。高所作業も平気でこなすという、この道一筋の経験と技術力が溝川の家具づくりを支えています。この日は、一度は定年退職したという、60代の職人さんも大きなカウンターを仕上げてらっしゃいました。

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杉の木が家具に使えるまでに大きく育つには、およそ100年の月日が必要。それだけの時間を生きてきた木を理解するのは、職人でも容易ではありません。

個性を見極めたつもりでも、思ったとおりにならないのが、木。植えられていた場所や使う部位、気候によって日々できあがるものは異なります。だからこそ、難しくおもしろいのだと語る高杉さん。

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「KIKOE(きこえ)」は、木に向き合う溝川の職人たちが生み出すオリジナルブランドです。丹後の海に降り注ぐ陽射しをイメージし、木目は斜めにデザインされています。

「あぁ、まさに今のような…」という参加者の声に窓の外を見ると、ちょうど雲間から日の光がまっすぐ射しこんでいました。

古い家具をデザインに取り組めることも「KIKOE」の魅力です。写真のサイドボードにも古材が使用されています。

「いいですね、家族の思い出が染み込んだ家具が、こうやって新しくよみがえる」参加者のなかには、そうつぶやく方も。

「家具職人は、名工になれる可能性だってある仕事なんですよ。自分の命が尽きても、モノは残る。家具は人の暮らしに寄り添って、次の世代へと受け継がれていく」

これから家具職人を目指す方にメッセージがあれば、という問いに、穏やかに、力強い口調で答えてくれる高杉さん。

職人は決して移り気ではできない、ときには覚悟が必要な仕事。だからといって、溝川は従業員を簡単に見放したりはしない。そんな思いのもとで働く職人たちは、皆一様に「この仕事が、木が好きだから」と口にするといいます。

1年たっても3年たっても、30年たっても、終わりが見えないそのおもしろさに魅了され、日々鍛錬を重ねる職人たち。

「これ一筋って生き方、かっこいいでしょ」

そう笑う高杉さんも、とてもかっこよかった。

思いもよらない出会いと感動が待っているDWKツアー。最終地点の「溝川家具店」でも、家具づくりの向こうにある熱い想いに触れることができました。

DWKツアー参加に寄せて

モノづくりの現場というと、モノができるまでの過程がフューチャーされがち。「DESIGN WEEK KYOTO 2022 in 丹後・中丹」ツアーで触れたのは、古来から続く自然の美しさ、そのなかで大切に育まれてきたことを受け継ぎ、今へと繋ぐ人々の想いの素晴らしさでした。

年代職業問わず、多くの人に知ってほしい、この感動を味わってほしいと感じた3日間。

訪問させていただいた企業の皆さん、参加された方々、ご同行いただいたコーディネーターさん、そして企画運営に携わられたすべての方々に感謝いたします。

どうもありがとうございました。

また、来年…!

執筆:永田 志帆