レポート−REPORT

「なんかしょう!」から生まれた金襴と医療器具のエモい融合!

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2022年11月12日(土)、まちまち案内所にて開催されたトークイベント「“なんかしょう!”から生まれた金襴と医療器具のエモい融合!」。

お話くださったのは、京都で西陣織の正絹金襴を手掛ける『誉勘(こんかん)商店』の松井 雅美さんと、宇治の『くすおか義肢製作所』の義肢装具士、安田 伸裕さんです。

2人の出会いで生まれたのは、美しい藍染の義肢を入れる正絹金襴の袋。義肢装具と金襴という、異なるジャンルが織り成すモノづくりの可能性についてうかがいました。

京の「金襴」宇治の「義肢」

北林:まず簡単に、お二人の自己紹介をお願いします。

松井: 皆さんはじめまして、こんにちは。『誉勘(こんかん)商店』の松井 雅美と申します。“誉勘”の“誉”は、昔100ほどあったという誉田屋(こんだや)という屋号に由来しています。“勘”は、創業者の勘兵衛からとったものです。

もともと本家の番頭だった勘兵衛は、のれんわけという形で本家の100mほど北にあがったところで店をはじめました。本家は帯を扱っているお店でしたので、商売敵にならないよう、うちは織物のなかでも“金襴”という帯の倍のサイズの生地を扱うことで商売がはじまりました。創業1751年の江戸中期から金襴一筋で始めさせていただいて、同じ場所で今にいたります。

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私は当代との結婚を機に家業に入りまして、今は子育ても終わり、より自由になって仕事するしかないという状況に置かれてがんばっております。

たまに“ぽんかん・松井”など、ひらがなで荷物が届くあることもあるのですが、それでも郵便局や宅配会社さんは必ずうちに届けてくれるという(笑)“ぽんかん・松井”って、なんだか吉本に出てきそうなぼーっとしてる名前やなぁって。それでも荷物が届くのが、かわいらしい逸話でもあるんですけれども(笑)

北林:ありがとうございます(笑)松井さん、もともとご出身は?

松井:私自身は、京都の中心部の錦市場や京都大丸があるような場所に生まれまして。

北林:失礼ですけど、あのあたり人が住んでるんですか?商業施設ばかりかと。

松井:錦にもちゃんと住人はいまして(笑)子どものころは錦をずーっと走ったり、魚をつついて怒られたりしていました。実家は桐箱を製造販売していました。私が大きくなった頃には、帯の桐箱も作っていたので西陣などに納めに出向いていたんです。今の仕事で西陣をウロウロすると、小さな頃に来たことがある場所やなぁって、ふしぎなご縁を感じています。

北林:ポリエステルのような商品が増えるなか、誉勘商店さんは正絹オンリーでご商売されてますよね。ありがとうございます。じゃぁ次は、安田さん。

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安田:はじめまして。『くすおか義肢製作所』の安田と申します。執行役員といいますが、いわゆる、先ほどお話にあった番頭みたいな(笑)従業員を取りまとめる形を取りながら、製造マネージャーの仕事を兼任しています。

義肢装具士は、手足を失ったときに必要な義手や義足を作るのが仕事です。また、腰が悪い方が使用するコルセットや、足のサポーターをオーダーメイドで仕上げることもあります。普段は宇治の製作会社から病院へ出向き、ドクターや患者さんとお話をしながらその方にあった義肢装具を製作しています。

僕の肩書「Gishi Designer」は、義肢をデザイン性のあるものに変えたい、もっとオシャレなものにしたいという気持ちを込めて付けたものです。ファッションのように使う方の気持ちが上がればと、織物や染物に出会ってからは、藍染やアーティストとコラボしたテキスタイルを義肢に使っています。

北林:オシャレですよね。義肢というと隠すイメージでしたが、これは真逆。人に見せたくなるようなデザイン。

安田:義肢って、人の体の形や色に合わせて作るのがセオリー。でも、どんなにがんばっても本物には負けてしまうんです。本物に近づけようとがんばるほど、違和感が生まれてしまう。

それなら、好きな柄や色のほうが使う方の気持ちがあがるんじゃないかな、と。日常生活を送るうえで、使わないときに置いてあってもきれいなものがうれしいんじゃないかなって。生活空間を彩る、インテリアにもなり得る義肢ができたらなと考えています。

北林:いいですよね、その日の気分にあわせて履き替えられる義肢。いわゆる、僕らにはできないことがそこにはあるわけですよね。

立ち話から生まれた「エモい」融合

北林:これだけジャンルが違うお二人が出会ったきっかけは?

安田:松井さんが会社見学で義足を見て、義足を入れる袋を提案してくださったんですよね。そのときはほんの立ち話で。僕もいいですね、やりましょうーって。実は義足を入れる袋はあるんですよ。でもあくまでも普通の袋だから、松井さんのひと言がすごく引っかかったんです。

北林:ぶっちゃけたこと聞いていいですか?義足っておくらするんですか?

安田:ひざから下の義足で50万円から60万円くらい。太ももをカバーするタイプは、70万円から100万円。膝の曲げ伸ばしができるタイプは、電子制御部分だけで車が買えるような値段がします。それをビニール袋に入れて渡してるっていうのは、どうなんだろうって。

北林:例えが合ってるのかわかりませんが、ポルシェを野ざらしにしてるみたいな(苦笑)

安田:そうなんですよ。それは果たして正しいのかって。松井さんのひとことで気が付いたんです。使っている方も案外そういうことに気付いてないんですよ。よくよく考えたらおかしな話なんですよね。

松井:私はそこまで深く考えていなかったんですね。うちの生地を使っていただいて、何かできないかなって。「袋を作らせてください」ってお話したら、「いいですねー」って。袋は強度も必要だし、シルクだと難しいかなと思ったのに、ほんとにいいんですか?ってこちらが思ったくらい(笑)

お話している間にどんどんイメージがふくらんで、同じ作るんだったら、生地もお色味もとことんこだわって作らせていただこうって。

シルクと袋という点だけ決めて、あとは全部お好みと、私たちの感性と技術を集結させてとっておきのものができたらいいな、という話になったんです。この色に決まったのも、安田さんが熨斗目花色(のしめはないろ)がいいっておっしゃって。

安田:「KYOTO gishi* design」というプロジェクトを始めたとき、本来好きだった藍色のなかで、何かないかなと探したんです。そしたら、熨斗目花色っていう色があるんやって。色の経緯を調べたら、自分がやりたいプロジェクトと合致する点が多かったんです。

本来は、一発でできる色じゃなく経年変化で生まれる色。僕が活動をがんばって、最終的に経年変化で良いプロジェクトにしたいという志と重なって…。これが袋の製造が難しくなった経緯のひとつでもあるんですけど(笑)

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松田:色って、お一人お一人イメージするものが違うんです。ひとことで「青」といっても、みなさんイメージする色は違う。熨斗目花色も、ネットで調べるといろんな色が出てくるんですね。うちのカラーパレットでこれかな?という色を2つ提案したら、安田さんはその2つの中間を取りはった(笑)

織物は縦と横の糸で構成されていますけど、どちらも同じ色で染めるなんて、そんなおもしろくないことはしたくない。この袋の生地は、経糸(たていと)は紺色、緯糸(よこいと)には緑や青系を使っています。織り上げたとき、それぞれの色が重なって熨斗目花色ができるんです。太陽の下で見ると紺色のベースが緑をやわらげてくれて、巾着で折り曲がると色の深みが出ます。

柄は、雲立涌(くもたてわく)という文様の中に雲をデザインしたものです。雲は蒸気を表していて、かつては装束などに用いられていました。袋を持った方の運気が上がる、気分が上がるようにという願いを込めてと安田さんに提案したら、気に入ってくださって。

触れたときのことも考え、経糸緯糸が浮き出ないよう、表面はなめらかに仕上げています。義足が入るものですから、糸の密度を詰めて強度を強めました。

安田:僕はてっきり、一発でこの色が出るのかとイメージしてたんです。複数の色が重なることで一色に見えるというのは、自分にはなかった発想でした。松井さんからご提案いただいたとき、すごく素敵やなって。織物の見せ方って深いなって、教えていただきました。

北林:これは確かに気持ちが上がりますよ。大切なものが入ってるんだろうなぁって。

安田:実は僕も今日、初めてこの場で渡していただいたんです。

北林:え、ここで初めて!それはすごい。実際目にしてどうですか?

安田:いやー、これはもうやばいなって、めっちゃ感動してます。

機能的+想いを乗せた価値を

松井:以前、北林さんがオーダー自転車のお話をされていたとき、完成までのワクワクが楽しいとおっしゃっていて。同じように、袋が完成するまでの時間を楽しみにしてもらいたいなと今回思いました。

北林:うんうん、自転車に漆を塗ったことあるんです。漆の色や塗り方を決めるだけで1カ月くらい時間がかかって。でもそのプロセスが楽しくて。

松井:今はオーダーしたら早くできるのが魅力、といわれることが多いけれど、本来モノはそんなに早くできるものではないんですよね。できあがるまでの時間も、楽しんでいただけたらいいなって。

北林:そもそも価値って、機能的、意味的、情緒的、経験的と4つにわかれるんじゃないかなと、最近よくお話させていただいてます。機能的でいえば、今回の袋は包めればいいんですよね。義足ならちゃんと歩ければいい。そこがちゃんとしていないと、ほかの価値もついてこない。

でもそれだけじゃないよねっていうのが、意味や情緒や経験にあたると思うんです。先ほどの柄の話は、意味的価値を深めてくれますよね。安田さんの袋に対する反応は情緒的な価値。袋ができあがるまでのストーリーは、経験的な価値を生んでくれる。

安田:まさに「KYOTO gishi* design」では、情緒的価値に重きを置いています。使うものだからこそ、機能的価値は当たり前。ただそこに感情が入らないと、毎日身に付けるまでにはいかないんですよね。

北林:今までなかったでしょう?付けたくなる、義肢。

安田:そうですね。僕が今後やっていきたいのは、経年変化で味がでる義肢装具です。ジーンズのように、年月による変化で味がでるもの。そうすれば、義肢装具をより長く大切にできるのではと思います。

他の視点から生まれる新たな気付き

北林:今日受け渡されたということは、義肢、まだ袋に入れてないんですよね。

安田:まだですね(笑)

北林:ではでは早速、ここで初めて入れていただいて(笑)

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北林:どうですか?ご感想は。

安田:義足って、本来人間の体に代わるものなんで、これはすごく必要だなって。これまで単純な袋に入れてたことが恥ずかしくなります。

北林:これまで疑問にも思わなかったことが、松井さんの話で「あ、袋いるわ」って思えたということですよね。そこがすごく大切。アーティスト KATO YUIさんとのコラボでも同じようなことがあったとか?

安田:はい。そのときはアーティストさんとコラボし、僕が10年以上関わらせていただいているユーザーさんの義足カバーを作ることになりました。ユーザーさんは、僕にとってお母さんのような存在の方です。

その方の気持ちが上がるものってなんだろうってアーティストさんに聞かれたとき、悩んだんです。でも、イヤだと捉えているものはわかっていた。桜の時期に事故に遭って足を失われたので、桜が咲く季節は気持ちが沈むとおっしゃっていたんですね。僕のなかでは、その方にとってお花の話はタブーと捉えていたんです。

ところが、アーティストさんがユーザーさんとお話したところ「お花が好き!」っておっしゃるんですよ。僕としては、え!お花、好きなん?って(苦笑)

確かに、そういわれれば家のなかにお花がたくさん飾られている。桜以外のお花はお好きだったんですよね。僕が気付かなったことを、アーティストさんが引き出してくれたんです。結果、お花柄のかわいらしい義足カバーができあがりました。

北林:そういうの結構ありますよね。ほかの業界から見ると、別の何かが見えてくる、みたいな。

安田:デザインウィークはそういった点でものすごく魅力的なんですよね。自分たちのモノづくりから、一度目を離して新たなものが得られる場所。

北林:松井さんはどうですか?丹後にいらっしゃったのは久しぶり?

松井:ほとんど初めてくらいの勢いで来ました。京都生まれなのに。

北林:どうですか?丹後の印象。

松井:知らないことがいっぱいだなって、めちゃくちゃモノづくりのまちやなって、びっくりしてます。まちを車で走っているだけではわからないなって。

京都って、昔から中身何やってるかわからへんのが美徳、みたいな。実はあの人そうやねんでっていわれる秘密主義が、美徳とされる風潮があると思うんです。それがインターネットの普及で中を見せることによって、見る側の知りたい気持ちがわかってくる。モノが作られる向こう側が見えてくるのは、すごくいいなぁと思います。

安田:丹後はオープンハウスされてる方も皆さんすごく親切で。聞くといろいろ教えてくれる。去年は弾丸で1日4件まわったんですけど、1件2時間ぐらいしゃべっていただいて(笑)

北林:ほっといたら3時間くらいしゃべってくれたかもしれませんね(笑)

2人の出会いからその先へ、新たに広がる可能性

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北林:安田さん、さっきからずっと袋抱きしめてますけど(笑)

松井:なかホワホワですしね(笑)1点ものって作ってる側も楽しくて。これは特殊な大きさだし、入れるものまで決まってるし、どうしようああしようって決めるのが楽しかったです。

北林:使う人の顔が見えてるときと、そうではないときは気持ちが違いますか?

松井:全然違います。こんなとこ糸出てるやんって、思われるのがイヤっていうのもあるし。こうしといたほうがいいよなって考えることもあるし。使う方の顔が見えてるから、ヘタなことはできないって。

参加者:今回は安田さんから松井さんへのオーダーで袋が生まれましたが、これを義肢ユーザーさんが見て同じものが欲しいとなったら、そこからまた新しいストーリーが生まれるということでしょうか?

安田:そうですね。そうなると僕自身のストーリーと、ユーザーさんと僕との間に生まれたストーリーも、袋の中に入ってくるのかなって。もっと深いものになるんじゃないかなと思います。人間3人が関わると、いろんな歴史が混ざっていくので。

松井:それは1人で考えていても生まれないものですよね。

参加者:袋自体がユーザーの方に届くのはこれからになりますが、安田さんの藍染の義足を使ってらっしゃる方の反応はどんなものですか?

安田:藍染の義足を最初に作ったのは、身近なユーザーの方の作り変えの時期だったんです。こんなものがあると提案したら、とても喜んでくださって。

ただ、僕は欲深いので(笑)その方がお好きな形や模様を考えて、ギリギリまで内緒にして「できました!」とお渡ししました。そのときは屋外だったので、太陽光で藍色がきれいに発色して…すごく喜んでいただいて、その方は義足を抱きしめていらっしゃいました。

北林:おー。いいですね。義足が抱きしめられているのを見たのは、そのときがはじめて?

安田:ほんまそうですね。義足ってものものしいというか、どうしてもメカメカしい。急には触りづらいんですけど、藍染のときは完全に抱きしめてくれて。「わたしのものや」ってワードがすごく嬉しかった。

普段は「作ってくれてありがとうございます」ってお礼が先に来るのに、そのときは「わたしのものや、最高」って。僕の存在を忘れてくれてるのが嬉しくて。あ、これはささったなって。感動の瞬間でした。

北林:本来そうですよね。機能的なことだけじゃないというのは、これからの日本のモノづくり全体に大切な話なんじゃないかと思います。松井さんのおっしゃっていた柄の話も、京都が積み上げてきた歴史や文化がないと言えない話だなと。今後も京都でこのような交流が深まり、モノづくりの側とユーザーが混ざり合い、新しいものがどんどん生まれていけばうれしいなと思います。本日はお二人、どうもありがとうございました。