──クリエイティブタウンができるというお話、ワクワクしながら伺いました。一方で、地域住民がどう思われているのか気になりました。歓迎的なのか懐疑的なのか、どうなんでしょう?
足立:確かに突然イノベーション拠点が増えると戸惑う方も多いと思います。幸い、現在は牛歩の歩みで計画が進んでいますが、そのなかでも小さなコミュニケーションを欠かさない意識が重要です。
また、クリエイティブタウンに必要な要素は、必ずしもウォールペインティングや大きな音で音楽を鳴らすといった行為に限られたものではありません。人々が没頭できること、チャレンジできることが求められるのだと思います。KRPにはレンタルラボがあり、Kyoto Makers Garageには安く借りられる3Dプリンターがあるなど、この街ならではの強みを活かしながら、物事に没頭できる環境を整えていきたいです。
また、この場GOCONCでは月に1回、クラシックやDJなどの音楽イベントを開催しています。ご近所の方も気軽に参加し楽しんでもらえるよう、こういったイベントは今後も続けていくつもりです。
──地域に根付く伝統工芸品などを外に向け発信する際、受け取る側にとってそれはどういった意味合いを持つものになるのでしょうか?
小山:海外の方の多くは、日本の伝統文化のフィロソフィーに惹かれるのだと思います。日本の伝統工芸には、中国や韓国とは違うそぎ落とされた美のようなものがありますよね。そういった精神性に多くの人は惹かれるのではないでしょうか。また、建築家やデザイナーなど、クリエイティブに携わる方々は日本が大好きですよね。梅小路にもそういった方々を迎える場があれば最高ではないかと思います。
北林:海外の方にはゲートウェイとしてぜひ一度ここに着地してもらいたいですね。いきなり丹後や丹波に足を運ぶのはハードルが高いだろうから、一度ここへ立ち寄ってもらい予備知識を得ていただく。そもそも伝統工芸自体が、その土地にアクセスするためのゲートウェイ的な存在なのではと感じています。
小山:もうひとつ、京都の良いところとして挙げられるのが、大企業が少ない一方で起業家が多い点です。京都で出会う起業家さんって、面白い方が多いんですよ。そういった方々が定期的に集まれる場所ができれば素晴らしいなと思います。
足立:確かに、京都にはインディペンデント感満載の方が多い印象です。音楽や工芸に携わる方や舞台関係の方など、個々の熱量が高い方が非常に多いですよね。企業側も、そういった方々とどんどん関係性を持ってもらいたいと感じています。
北林:足立さんのバックグラウンドについて申し上げると、本籍は大阪ガスなんですよね。実は私も20年前は大阪ガスで足立さんと同じチームに所属していたという。
足立:京都で仕事を始めてからご縁の大切さをひしひしと感じています。誰と知り合いなのかという点が大事だな、と。「小山ティナさん知ってるの?」「あ、知ってるよ」みたいな。
北林:これが東京のような大都市になると、知り合い同士が重なり合うケースは少ないんですよね。クリエイティブタウンの要件にも、10分以内に会える距離感が必須とされています。今日会いませんかと電話をして気軽に会いに行ける距離感ですね。
──本日のDWKツアーに参加した者です。先ほど対話の重要性について触れられていましたが、KRPの30年の歴史の中で対話からのイノベーションの機会はどれほどあったのでしょうか?
足立:KRPは、「京都からの新ビジネス・新産業の創出に貢献する」という気高いミッションからスタートしました。なので、ここは新産業を目指す皆さんとオープンに交わりましょうという場でもあります。京都の真ん中で少し先を行くことを意識した地区にしたいという考えから、2000年頃に地区内高速通信網を整備しITベンチャーの集積を図ったり、ライフサイエンスのスタートアップさんを応援するヘルスケアベンチャー·カンファレンスなども開催してきました。
北林さんとの対話では、研究者もビジネスマンも音楽を聴いたりアートに触れるよねという話から、もっと文化的な交流機会からもイノベーションのきっかけになるのでは、と盛り上がってます。対話からのイノベーションという面から見ると30年目にしてまだまだといえるのかもしれません。ぜひこれを機に、皆さんとも良い対話を通じて関わっていけたらと考えています。
──アートインレジデンスのように、海外からアーティストを招いたりまたは国内からアーティストを海外に出したりといった取り組みは考えてらっしゃいますか?一次産業の話がありましたが、間伐材を利用した作品を作り、DWKのような規模で発表、ゆくゆくはビエンナーレなどに出品すれば、外と中とが繋がる魅力的な取り組みになるのではなるのではと思うのですがいかがでしょうか?
北林:DWKも8回目を迎え、文化として少しずつ定着し始めたところです。全国にも似たようなイベントはあるのですが、京都はものづくりと創造性を有する方々、サポートする方が多いことが大きな特徴かと思います。現在の領域を発信する場として、2025年の万博はちょうど良いのではと考えているところです。
発信する機会さえあれば、今おしゃったようなアーティストインレジデンスも視野に入ってくるでしょう。これまでのDWKは、京都というガチガチに固まったぬか床をかき混ぜ、良い状態にするのが役割でした。これからはぬか床に素材を入れ良いお漬物を作っていく、いわゆる新しいものを生み出すフェーズに移る時期が来たのかと考えています。京都のはしっこだからこそできる表現を皆さんと一緒に考えていきたいですね。
──ガチガチのぬか床をかき混ぜるには、賛同者を集める必要があったと思います。そのあたりはどのようにクリアされたのでしょうか?
北林:ポートランドに足を運んだ際にDWKのようなイベントの必要性を感じ、やるぞー!と口にしてみたのが第一歩でしたね。後は運がよかったのかもしれません。京都信用金庫の方や今日ご一緒している足立さん、個人的な知り合いやDWKスタッフなど、どれもがご縁の積み重ねで生まれた関係です。すべてが始めからうまくいったわけではありません。少しずつ少しずつご縁を重ねた結果、今回の8回目の開催につながっているのかなと思います。
藤崎:DWKも梅小路もまだまだ仲間を募集しているところですよね?この場にいらっしゃる皆さんも今回のテーマに興味があるから足を運んでくださったのでしょうし、ぜひ今後とも関わっていただければと思います。
2025年大阪・関西万博開催時には、およそ300万人の外国人がやってくるといわれています。しかも、文化的なことへの関心が高い方々が訪問される。万博は、とかく観光消費額や経済効果などの矮小な議論になりがちですが、これを文化イノベーションに活用しない手はないのではないでしょうか。
日本の伝統文化の良さに気付き、感じてもらうためにもこうしたイベントはどんどん開催していきたい。訪れた方々とのディスカッションを通し、日本人である私たちも新たな視点から物事を捉えることができます。そのためには、まだまだ仲間が必要です。みなさんぜひ一緒にチャレンジしていきましょう。
北林:正解や結論を出すことではなく、まず色々な人と知り合い話し合うことが必要ですよね。そういった意味でも、本日はお三方に議論に加わっていただき大変有意義な時間となりました。この場に参加された皆さんもぜひ感想を持ち帰り、他者との対話のなかで新たな何かを発見してもらえればと思います。本日はありがとうございました。
レポート:永田 志帆