レポート−REPORT

「DESIGN WEEK KYOTO 2023 in 丹波・京都・山城」ツアーレポ part 1

「DESIGN WEEK KYOTO 2023 in 丹波・京都・山城」にあわせ、2023年2月16日(木)〜18日(土)「オープンサイト・ラーニングツアー」が開催されました。

「オープンサイト(OPEN SITE)」とは、モノづくりに関わる事業社が活動の場をオープンにする取り組みのこと。ラーニングツアーでは、地域の歴史や文化を学んだコーディネーターとともに効率よくオープンサイトを訪問できます。

ツアーの様子をお届けするのは、大阪在住の酒好き旅好きWebライター。初日は丹波をめぐるコースです。午前9時、集合場所の亀岡駅には静かに小雪が舞っていました。

  • 2月16日(木)ラーニングツアー概要

    ・ 京・美山ゆば ゆう豆
    ・Beans Cafe にてゆばランチ
    ・美山かやぶきの里散策
    ・ひよしフォレストリゾート
    ・松楽

「京・美山ゆば ゆう豆」土地と人、美山の恵みを全国へ

亀岡駅からバスで約1時間。ひんやりとした空気と一面の銀世界のなか、笑顔で出迎えてくれたのは『京・美山ゆば ゆう豆』代表・太田 雄介さんです。

昨年6月に新設された工房では、1枚1枚ていねいに湯葉が製造されています。引き上げた生湯葉は、その日のうちに京都市内のホテルや料亭へ。各店のオーダーにあわせ、湯葉の厚さや柔らかさを細かく調整するというから驚きです。

各店のランチタイムにあわせるため、湯葉作りは深夜1時ごろからスタートします。本来であれば作業が終了しているところ、この日はツアーのために製造時間をずらしてくださいました。

形や厚さの整った湯葉を引き上げるには、最低でも3〜4年の経験が必要なのだそう。豆乳は常に80〜90℃にキープされているため、工房内の温度は高く、夏場は蒸風呂状態になるといいます。

湯葉の原料となる大豆は、すべてが京都産です。しかも、約7割の大豆が地元美山の農家で栽培されています。

『株式会社 京・美山ゆば ゆう豆』代表・太田 雄介さん

「一時は美山産大豆を100%使用していましたが、天候不順や農家さんの高齢化で、徐々に大豆の生産量は減ってしまいました。美山産大豆を確保できるようにと、現在は農家さんと相談しながら、徐々に作付面積を増やしています。おかげさまで、昨年は14、5トンの大豆を確保できました」

地元美山で生まれ育ち、府外へ進学したことをきっかけに地元の良さを再認識したという太田さん。ところが、実際に帰郷してみると働く場は少なく頭を悩ませたと言います。

太田さんは地元の湯葉店で4年間修業を重ねた後、独立。美山の恵まれた土地で大豆を作り、加工し、全国の人へ届けたいという思いから農家と二人三脚の大豆作りをスタートさせました。

「農家さんが栽培された大豆は、すべてうちが買い取ります。たとえほかより少し高かったとしても。最近は徐々に農家さんの若返りも進んできました」

農家の苦労や喜びを共有したいと、近年は自社畑で大豆栽培に着手。製造スタッフはもちろん、カフェや支店のスタッフも一丸となり畑の手入れに取り組んでいるそうです。

消泡剤を使わない完全無添加の湯葉は、地元の学校給食でも提供されています。さらに、おからは堆肥として再利用されるという話に『ゆう豆』の湯葉が美山の人々と土地を繋ぐ存在であることを感じました。

「現在は飲食店や贈答用としてのニーズが主ですが、将来的には一般家庭の食卓に並ぶ存在になってほしいと願っています」

太田さんの展望に対し、「でも湯葉って食べ方がわかりづらいんですよね…」という参加者の声も。その問いに対する答えは、工房横の飲食店『Beans Cafe』で待っていたのでした。

「Beans Cafe」心もからだも温まる創作湯葉料理

2022年4月にオープンした『Beans Cafe(ビーンズカフェ)』は、かやぶき古民家をリノベーションした飲食店です。きれいに雪かきされた玄関の暖簾をくぐると、笑顔の素敵な店長と料理長が迎えてくださいました。

『Beans Cafe』店長・齋藤 純子さん

湯葉や地元野菜、お米を味わってほしいという思いから誕生したカフェは、広々とした土間のスペースを活かしつつ、小上がりも設けられています。

「2階もどうぞ」の案内を受け階段を上ると、そこは昔懐かしいかやぶきの空間。明るく開放的な1階とは対照的に、しんと静かな空気に包まれています。昔の日本家屋はこんな感じだったのかしら…と郷愁にひたっていると、1階からお出汁の良い香りが…。

「これを楽しみに参加しました!」という方も多かったランチメニュー。この日のメインは湯葉うどんです。

お揚げのように見えるのは、なんと湯葉。つるつるしこしこの麺には美山の米粉が使用されています。さらに、食べ進めると底からおさしみ湯葉が登場するという、湯葉づくし美山づくしの一品です。

白黒2色のかさね湯葉や炙った湯葉豆腐など、こんなにバリエーション豊かな湯葉料理は初めて。天ぷらのフキノトウは、料理長自ら朝のうちに収穫したというではないですか。

雪をかぶったフキノトウをひとつずつ摘まれる姿を想像したらもう…それだけで美味しさ倍増です。暖炉にはクロモジがくべられ、テーブルには春の花が飾られるなどあちこちに料理長の心遣いがあふれていました。

カフェでは『ゆう豆』の商品を購入可能、調理の参考になるレシピ集も

「今後は1つひとつの商品により手間をかけ、付加価値をのせたものを届けていきたい。美山という土地や大豆の品種にこだわりながら、多くの人に湯葉のすばらしさを伝えたいと思っています」

生産量ではなく、あくまでも質を重視していきたいと語る太田さん。食を通し、美山の恵みや人のやさしさに触れられるこのカフェも、他にはない『ゆう豆』ならではの付加価値といえるのかもしれません。

太田さんのお話に買い物、食事と充実したひと時に大満足な参加者を乗せ、バスは一路『美山かやぶきの里』へ。雪に包まれたかやぶき集落の美しさは圧巻です。季節ごとに異なる趣を楽しめるというコーディネーターの話に、夏にまた訪れたいと話す方もいらっしゃいました。

土地の魅力に触れ「もう一度」と足を運ぶきっかけを与えてくれるのがDWKツアーの良いところ。次に向かう『ひよしフォレストリゾート』も、まさにそんな場所なのでした。

「ひよしフォレストリゾート山の家」自然のなかで餅つき体験!

アツアツの蒸米を杵で潰してー…

つく!

合いの手を入れてー…またつく!よいしょー、よいしょー!

ご紹介が遅れました。こちらは南丹市の山間に位置する『ひよしフォレストリゾート山の家』。「米が蒸しあがったので早速とりかかりましょう」と始まったのは、ワークショップの餅つき体験です。

各オープンサイトのワークショップもDWKの楽しみのひとつ。「昔はようけ餅ついたんやで。納豆餅つくって売りに行ってたわ」と教えてくれたのは、合いの手役の湯浅さんです。バチン、バチンと小気味いい音に参加者のテンションも上がります。

コテージや温泉施設、キャンプ場を兼ね備えた『ひよしフォレストリゾート山の家』で活躍するのは、幅広い年齢層のスタッフです。料理には地元農家が育てる食材がふんだんに使用されています。

湯浅さんの手でくるっと丸められたお餅は、ボウルに放り込まれあっという間に美味しいきな粉餅や大根餅に。連携プレーが見事なこちらのお二人は、長年付き合いのある仲良しさんだそう。

中腰作業を心配され「はっ、腰痛いの忘れてたわぁ!」と笑う湯浅さんに、場の空気がさらに和みます。何よりつきたてのお餅の美味しさったら…!おかわりする方も続出です。

こちらはもうひとつのワークショップ、薪割り体験です。上からハンマーで叩いてパカっと2つに割れる瞬間が気持ちいい!これはストレス解消に良さそうだわ…(笑)

地元の子どもたちにとって薪割りはお手伝いのひとつだそう。このあたりは薪ストーブのある家庭が一般的で、屋根からのぼる煙が在宅の目印になるといいます。

「日吉の集落は、1本の川に沿ってできています。美味しい野菜ができるのも、山林から続く美しい水脈のおかげです」

『ひよしフォレストリゾート山の家』支配人・中原 哲さん

そう教えてくれたのは、大阪から日吉町へ移住したという中原さん。支配人を務めながら丹波の黒豆栽培も手がける人物です。

「移住のきっかけをよく聞かれるのですが、特に大きな理由はないんですよ(笑)ほんとにたまたま、素敵なお家を見つけてこちらへ来させてもらって。黒豆栽培も薪作りも、家の畑で何を作ろうかな、すてきな薪ストーブを置きたいなという気持ちから派生したもの。たくさんできた黒豆を宿泊施設の厨房に卸したり、薪をキャンプの利用者に販売したりするうちに、今のライフスタイルができあがっていました」

日吉町は京都や大阪から車で1時間弱。都会から近い田舎、ともいえる距離感が魅力のひとつと中原さんは語ります。

「あけびや山ぶどうなど、都会の方にはなじみがない食材も工夫しながら提供させていただいています」

そうおっしゃるのは、生まれも育ちも日吉町という料理主任の山下さんです。

「料理に使う地元野菜は、甘くて美味しいとお客様から好評です。特に大根は、茹がかんとそのまま炊いても美味しいんですよ。昔から農家をされている方々の工夫のたまものだと思います」

川の向こうにはバーベキュー施設やコテージが並びます。コテージの内装は、スタッフがアイディアを出し合いながら改装したもの。リゾートをイメージした家具や備品、スタッフ持参のハンモックが非日常感を演出します。

『ひよしフォレストリゾート山の家』では天然温泉も楽しめ、子ども連れの家族に年配のご夫婦、卒業旅行の学生さんと利用者層は実にさまざまです。

「10月は黒枝豆が食べられますよ。茹がくとなんぼでもいけるんです」と教えてくださった山下さん。これは黒枝豆×ビールを目的にまた来なくては…。

さらに『ひよしフォレストリゾート山の家』は米が耕作されなくなった土地などを借り受け、昨年ビニールハウスを建設。川の水を使いながらいちごを育てています。3月末にはいちご狩り施設『ベリーパーク京都ひよし山の家』をオープン予定だそう。

「日吉の清流で育った美味しいいちご、ぜひまた食べにいらしてくださいね~!」

笑顔で手を振るスタッフに見送られ、バスは最終スポット『松楽』へと走り出すのでした。

「松楽」利休の見た景色が、ここに

茶は服のよきように、炭は湯の沸くように、夏は涼しく冬は暖かに、花は野にあるように、刻限は早めに、降らずとも雨の用意、相客に心せよ。(利休七則)

一服の茶を通し、亭主と客が心を通わせる。茶道において必要な心得を七則として示した茶人・千利休。

『松楽』で百有余年作られ続ける“楽焼”は、ただただ美味しい一服をと利休が導き出した「茶の湯のため」の焼き物です。

『歸來窯』二代・佐々木 虚室であり『松楽』代表取締役・佐々木 大和さん

説明を交えながら楽焼の製法を教えてくれたのは、佐々木 大和さん。静かで、しかし朗らかな語り口にこちらの緊張がふっとほぐれます。写真は茶碗の形を削りだしているところ。用いられるのは、佐々木さんが自ら制作した道具です。

「何気なく削っていますが、いろいろ決まりごとがあるんです。まず口。五岳(ごがく)と呼ばれる5つの山を作るのが基本です。天竜寺、相国寺…足利義満が格付けした京都五山を表しているんですね」

口の後は、茶巾や茶筅が触れる内部が削られていきます。質問に対して時折手を止めながら、完成までは10分ほど。

真っ二つに割られた茶碗は見事なまでに均一の厚さ。茶巾や茶筅が触れる部分はゆるやかにカーブしているのがわかります。これらはすべて、400年前から口伝で伝えられてきた製法だそう。

釉薬は筆で何度も塗り重ね厚みを持たせます。塗っては乾かし、塗っては乾かし…最低でも5回ほど。それもすべて、楽焼が急熱急冷の製法で生まれる焼き物だからです。

1200℃で4分と短時間だけ熱を入れることで、表面の釉薬は溶け、内部はレアな状態で仕上がります。内部のやわらかな部分が熱を遮断してくれるため、どれだけ熱い湯を注いでも手で持つことができる。利休が茶の湯のために考案した楽焼の大きな特徴です。

1200℃の釜から引き出された茶碗は神々しいほどの輝き。そこからゆっくりと静かに、朱から黒、漆黒へと色合いが変化していきます。ちりちりと聞こえるのは、貫入と呼ばれる細かなひびが入る音だそう。本来であれば窯のなかで聞こえる音も、楽焼では間近で感じることができます。

「400年前も、利休と長次郎(樂家初代)が対話しながら、こうして窯と向き合う時間があったんでしょうね。用の美を追求した茶碗を作るために」

熱を発する窯を背に、そう語る佐々木さん。

「私たちが作るのは、芸術作品でもなんでもないんです。ただお茶が点てやすいように、飲みやすいように。私たちは陶芸家ではないんです。ただの、職人です」

誰かに差し上げるお茶のためだけに、400年前に楽焼を考案した千利休。その凄さと、現代へと技法を受け継ぐ職人の素晴らしさに心が震えます。

『松楽』の作陶体験には、海外から訪れる方も多いそう。作陶の合間にはお抹茶もいただけます。あぁまた、再び訪れたい場所が増えてしまった…なんて奥深い、丹波エリア。

「1日でこの内容の充実ぶりはすごい」「学びを自分の仕事に活かしていきたい」と喜びの声があふれた帰りの車内。丹波の雪景色を走るバスは、熱気で満ちていました。

その土地の歴史や自然に関する学びが深まるのも、コーディネーター付きのツアーだからこそ。ラーニングツアーの実りの多さに感激を覚えた初日なのでした。

執筆:永田 志帆