ストーリー−STORY

大人って全然しんどくなくて、すごく楽しい! もりさん 山田由英さん

2022年9月11日、グランフロント大阪で、京都と関わりたい人や京都への移住希望者と、府内地域で活躍する人との関係づくりを行い、京都府内各地を訪れるきっかけを創出することを目的としたイベント「ALL KYOTO FES」が開催されました。

DESIGN WEEK KYOTO もブース出展し、DWK の OPEN HOUSE にも参加した、京都のモノづくり企業で活躍されている様々なジャンルの5名の方に登壇いただき、どんな仕事を、どんな人が、どのような思いで行っているのかについて語っていただくトークセッションに多くの人が耳を傾けました。

ALL KYOTO FES

北林:トークセッション最初のゲストは、もりさんの山田由英さんです。

山田:もりさんの山田です。弊社は、西陣織の中でもご覧頂いてるような雛人形の着物生地を織っている会社です。西陣織って聞くとみなさん着物とか帯を想像されるかと思うんですけれども、その中の金襴という帯・着物などを作っている会社です。

北林:金蘭ってどういうものかを説明していただけますか。

山田:金襴というのは、金銀糸を織り込んだ織物です。ただ、これは今の生活にはマッチしないということで、普通の糸だけで織った生地も販売しています。それらの生地を使った雑貨も作っています。雑貨を作り始める前は、製造メーカーさんに生地を卸すことしかしてなかったんですが、昨今の住宅事情もあり、雛人形の製作が減少していました。生地も雛人形の小売りも両方ともなかなか難しい状況になってきていたところ、会社に生地がたくさんあるのでそれを使って何か作ってみようということで小物を作り始めました。

北林:良い着眼点ですね!

山田:ありがとうございます! いろんなイベントに出るようになって、例えば先週も東京ギフトショーに出展してたんですが、そういうところでお会いしたお客様と一緒に OEM を手掛けるようになりました。去年、京都で開催されたゴジライベントで出会ったお客様とは、御朱印帳とマスクケースを作りました。

で、西陣織って何ですか、という本題に戻るのですが、ちょうどこの間、組合の人たちとも「西陣織」の定義ってなんだろうって話してて、織幅でも、織り方でもないし、やっぱり組合に入ってるところかなっていうところに行きつきました。

北林:出た! 知られざる西陣織のリアルなんですけれども、実は西陣で作られているものが西陣織っていうと大間違いで京都府内でも丹後とかで織られることもあります。

山田:そうなんです。組合に入っているということが大前提です。弊社の工場も京都市内にもありますが、多くは丹後にあります。

北林:金襴と言えば、帯ばっかりだと思ってたらそうではなくて、金襴もお坊さんの袈裟とか、ほかのものにも使われているんですね。

山田:そうですね。金襴も4種類ぐらいに分かれます。弊社が手がけているのが人形金蘭、一番華やかな織りです。先ほど言ってたお坊さんの袈裟に使われる宗教金襴。それから掛け軸の周りに使われる表装金襴。もう一つは茶道具に使われる茶色っぽい名物裂金襴。この4種類に分けられます。でも実は、どこかに出典があるわけではなくて、多分この4種類だろうっていう感じです。

北林:人形だけじゃなくて雑貨など、色々広がってきてるんですね。

山田:そうですね。雑貨はすごく作りやすくて製品化しやすかったんですが、1メートル生地でがま口が20個もできてしまうんです。商品の生産量は増えても、生地の生産量は思ったより増えないというのがずっと悩みで。やっぱり織り手さんの仕事を増やすのが私の仕事なので、そう考えた時にインテリア業界っていうのは、例えばこのホールに壁紙でうちの生地を使ったら何メートル使うのか?って想像してみたり。インテリア業界が進出していくべき業界なんだなと、考えています。

北林:どんどん新しい技術も取り入れられつつ、昔からの意匠であったり柄などがアップデートされ続けてるんですね。

山田:最近力を入れているのは昔からある柄の配色変えですね。色を変えるだけで全然違うもの見えるのが織物の面白いところなので、そこに力を入れています。

北林:もりさんさんは伝統的なことをしてると思いきや、結構ハイテクなことが多くて。例えば丹後とのやり取りも。京都からだと2時間半ぐらい掛かって、ここ(大阪)からだと4時間ぐらいかかるんですけれども、そこと西陣で、どういうやり方をしているんですか。

山田:本社は京都市内の西陣というところで、そこで柄を作ったり、データを作ったりしているんですけれども、柄のデータをメールで丹後にいる75歳のおばあちゃんに送るんです。で、おばあちゃんがパソコンからそのデータをUSBに落として、それを機械につなげて織るという作業をしています。最短で、デザインができてから明日の朝にはサンプルとして織り上がってくるっていうぐらいスピーディーに対応しています。

北林:なかなかその速さはやってないですよね。ちなみによしえさんは8年前、どういう経緯があって入社したんですか。

山田:私は転職を何度かしてきたのですが、直近の会社が、ファンド会社に身売りして会社を閉めることになったので、仕事ないかなーって今の会社の副社長に話したら、経理を探しているとのことで、入社することになりました。

北林:全然経理のお仕事じゃないじゃないですか・笑

山田:経理してたのは3ヶ月ぐらいです。一応しました3ヶ月。経理として務めていたとき、たまたまギフトショーの準備を会社で他の社員さんがしていて、そこに混ざって話を聞いてたら、なんかちょっとそれではまずいんじゃないかなーって思うことがあって。ギフトショーには行ったことなかったんですが、まずくないですかっていう考えを率直に口にしたら、じゃあ山田さんやってみてって言われたところが始まりで、そこから今のポジションに至ります。

北林:なるほど。こんな形での自分に向いてる仕事の見つけ方もあるんですね。

山田:知り合いが多い方が、誰か、何かとつながれる機会が多いっていうのは感じます。DESIGN WEEK KYOTO に参加したのも、北林さんという人と知り合いだったからで。いつのまにか知り合いになっていて、その知り合いの人がなんかするって言ってるし、私も参加してみようかなっていう感じのことが今は多いかな。

北林:デジタルの時代とかSNSの時代とか言いますけど、やっぱり直接の出会いが大事です。

山田:で、何歳になっても就職はできるなって思います。私は今の会社で4回目ぐらいの転職です。毎回これで最後って思いながら・笑。私は抜群に人を前向きにさせる力があるらしくて、ある大学の就職課の人にインタビューを受けたのを学生さんたちがオンラインで見ていただいて、ちょっと気分沈んでたのが前向きになりましたっていうコメントがいっぱい来て。だから今は、そういうことも仕事にしてみようかなって思ったりも。

北林:キャリアカウンセラー的な・笑。

山田:私もそれこそ8年前は就活してたわけで、そう思うと自分は何を良しとしているか、自分が何を目指してるかっていうのは、あまり人と関係ないかなと思っています。「普通」って人それぞれ違うし。真剣な大人でさえあればいいのかな。

北林:真剣な大人・笑。

山田:真剣な大人って、めちゃくちゃ楽しい人生になると思います。大人って全然しんどくなくて、すごく楽しいので。でもそれはやっぱり、自分の意思をしっかり持っているからかなあ。もちろん、母親として子供のことは常に一番に考えています。でも会社に行ったら、忘れちゃうんですけど。

何のために働いてるのかっていうのは、会社のためだったりお客様のためだったりっていうのもありますが、子供を食べさせるためっていうのがやっぱりあるので。そのために働かないといけない。でも働いてると、面白い会社に出会って、面白い人に出会って、この人のためにどんな生地を作ろうって、いうわくわくにつながっていきますね。

北林:是非人生を楽しみましょう。色んな人に出会いながら。今日はありがとうございました。

ゴスロリお雛様。イベント当日も、たくさんの方が目をとめて「かわいい!」と注目の的でした。
昔からある柄でも、配色を変えるだけでこんなにも新しくておしゃれな印象に。

もりさん 山田由英さん

雛人形や五月人形用の金襴生地を織る「もりさん」。大正十年創業でデザインなどを担うオフィスは京都の西陣に、工場は西陣と丹後地域の与謝野に構える。需要が減りつつある西陣織だが、もりさんではインテリアやアパレル用生地などに新たな可能性を追求し続け、現代に生きる新しいプロダクトとしての西陣織の技術の継承に力を注ぐ。8年前、とあるきっかけで、もりさんに入社された山田さん。トークセッションでは、生き生きと金襴を広めるお仕事をされている彼女の想いが語られました。

聞き手:北林 功(DWKファウンダー)

COS KYOTO(株) 代表取締役/コーディネーター
(一社)Design Week Kyoto実行委員会 代表理事
2010年、同志社大学大学院ビジネス研究科に入り、「伝統産業グローバル革新塾」に学び、現事業のベースとなる「文化ビジネスコーディネート」のプランを構築する。2013年、COS KYOTO株式会社を設立。国内外への販路開拓や商品開発、戦略構築、PRサポート、交流イベントの開催や人材育成など、地場産業をグローバルな「文化ビジネス」とし、世界を楽しくするためのコーディネートを手がけている。